社長さん、こんにちは。
「うちには就業規則があるから、労務トラブルが起きても大丈夫だよね」
そんな風におっしゃる中小企業の経営者の方は少なくありません。しかし、社労士として様々な会社を見てきた経験から申し上げますと、決してそんなことはありません。
いざトラブルが起きたとき、結果的に「使い物にならなかった」ということになりかねません。「就業規則は、ベースは従業員を守るものであり(労働法)、それが会社を守ることにつながるのです」就業規則を整えておくことが非常に重要になるのです。
「聞いてない!」「知らない!」が引き起こす甚大なダメージ
皆さんの会社では、こんなことは起きていませんか?
- 従業員との間で「そんなルール聞いていません」「知りませんよ」と言った・言わないの言い争いになり、特に退職時に大きなトラブルに発展してしまった。
- 勤怠や休暇のルールが曖昧なせいで、社員から不満を漏らされたり、「もう出るところに出ますよ!」と強い言葉を投げかけられたりした……。
実は、こうした日常的な摩擦は、就業規則の整備に対する意識が少し足りていない会社ほど多く発生する傾向にあります。
こういった労務トラブルが起きると、会社にはどのような影響があるでしょうか。経験則から言わせていただきますが、以下の2つのダメージが非常に深刻です。
① 精神的なダメージ
まず何よりも経営者自身のダメージがきついです。本来なら本業の経営に専念し、勤しみたいはずなのに、違うところで頭を抱え、悩まなければならない。その時間は本当にもったいないものです。
② 金銭的なダメージ
未払い残業代の請求や損害賠償請求などで、数十万円、場合によっては数百万円といった大きなキャッシュが一気に飛んでいくことも普通に起きています。最近は、労働トラブルにおいて弁護士を立てることへのハードルが非常に低くなっていると感じます。
だからこそ、そういった最悪の事態に繋がらないよう、会社としてもしっかりと「防御策」を講じておくこと。これが、会社を安定して存続させるための非常に重要なポイントになります。
労務トラブルを防ぐための「3つの盲点(ポイント)」
では、労務トラブルを防ぎ、健全な職場環境を保つために、会社として日々「就業規則」に対して何を意識しておかなければならないのでしょうか。
今回は、多くの会社が見落としがちな【3つの盲点(ポイント)】に絞って、お伝えしていこうと思います。
盲点その1:就業規則の「中身」にこだわっていない
まず1つ目は、「とりあえず作ってあるだけ」で、就業規則の中身にこだわっていないという点です。
「中身にこだわる」とは、具体的に以下の2つの視点を持つことです。
- 法律の部分(法令遵守)
- トラブル対策・トラブル対応の部分
【法律の部分】絶対に欠かせない2つの「必要記載事項」
法律の部分でこだわるべきポイントは、ズバリ「必要項目を漏れなく記載する」ということです。
社長さん、ご存知でしたでしょうか?労働基準法において、就業規則には大きく分けて2種類の記載事項が存在します。
| 種類 | 内容・具体例 |
|---|---|
| 絶対的必要記載事項 | 必ず記載しなければならない最も重要なルール。 【例】労働時間、休憩、休日、賃金に関するルールなど。 ※会社に都合のいいようにばかり構成されていると無効になる可能性大。 |
| 相対的必要記載事項 | 「制度を設けたのであれば」必ず記載しなければならないルール。 【例】退職金制度、特別休暇(慶弔・結婚・感染症対応など)。 ※法的な設置義務はなくても、制度を作ったら就業規則への記載が必須。 |
これらがしっかりと漏れなく網羅されているかどうかが、ルールブックとしての信頼性を決める第一歩となります。これらの必須項目が漏れてしまうと、就業規則自体が無効になったり、いざという時に会社を守る武器にならなかったりします。
【トラブル対策の部分】「社内ルール」は明文化しないと意味がない
「中身にこだわる」もう一つのポイントは、トラブルを防ぐための具体的な内容を記載しておくということです。
例えば、建設業などで「うちは毎週週休2日なんて無理だから、4週6休制にしているよ」という会社があったとします。
しかし、この4週6休を導入する場合、「変形労働時間制」などの制度を正しく活用し、就業規則に組み込んでおかないと、法的に無効になってしまう場合があります。
無効のまま運用しているとどうなるか。「ある週は週休2日ではない(週40時間を超えている)」ということで残業が発生したとみなされ、結果的に未払い残業代の請求トラブルに繋がってしまうケースがあるのです。
こうした細かい法的チェックやトラブルを未然に防ぐ記載については、社労士などの専門家にチェックしてもらうのが非常に有効です。
盲点その2:「周知」を怠るとただの紙切れになる
2つ目のポイントは「周知」です。簡単に言うと、「作ったルールを社員にちゃんと知らせてください」ということです。
就業規則を新しく作ったり、内容を見直したりした時は、必ず社員にその旨を伝えて、「見てください」と伝えることが必要です。
労務相談を受けていると、「いちいち説明するの?」とおっしゃる社長さんもいます。お気持ちは分かります。しかし、「その手間こそが大切」と事前に割り切って、丁寧に周知を行っている会社ほど、実際に労務トラブルが起きていないのも事実です。
職場の見やすい場所に掲示・備え付けたり、パソコンの共有フォルダなどでいつでも見られる状態にしておいたりすれば周知として認められます。
就業規則には、給与の決定方法や会社の戦略的なことなど、社外秘の重要な情報が含まれています。それが外部に漏えいしたり、紛失してしまったりすると、重大な問題に発展する可能性があります。
盲点その3:作って終わりではない!「活用」こそが最大の防御策
最後、3つ目のポイントは「活用」です。実は、中小企業においてこの「活用」が全くと言っていいほどできていません。
日常的な社員指導や注意を行う際、必ず就業規則に立ち戻り、就業規則をエビデンス(証拠)にして伝えることが非常に重要です。
- × 悪い例:ただ単に「改善して!」と怒る。
- 〇 良い例:「あなたのこの行為は、就業規則の服務規律第〇条に違反しているから、改善してください」と伝える。
会社としてルールで明確に求めているにも関わらず、それが守られていないことが問題なのだと伝えることで、指導の信憑性と効果が格段に上がります。
さらに重要なのが、解雇や懲戒処分(譴責、出勤停止、懲戒解雇など)を行う場合です。
懲戒処分は、就業規則に記載されている「理由(懲戒事由)」に該当しない限り、行うことはできません。もし記載されていない理由で処分を下せば、不当な処分として会社側がみなされてしまいます。
いざという時に正しく対処するためには、日頃から社長自身が就業規則の内容を理解し、トラブルの際にはそれをエビデンスとして堂々と提示できる状態にしておく必要があるのです。
まとめ:就業規則は「立派な社内ルール」である
ここまで、労務トラブルを防ぐための就業規則の「3つの盲点(中身、周知、活用)」についてお話ししてきました。
就業規則は、会社と社員の双方を守る立派な社内ルールです。
金庫の奥にしまっておくのではなく、しっかりと表に出して、日々の労務管理に生かせるように意識づけをしてみてください。


