社長さん、こんにちは。
「新しく人を雇うことになったから、明日から来てもらうよ。給料や休みについては面接でしっかり話して、本人も納得しているから大丈夫だ!」
もし社長さんが今、このように口約束だけで採用を進めようとしているとしたら、少し危険かもしれません。
実は、多くの経営者の方が「労働条件通知書」や「就業規則」に関して、いくつか陥りがちな「間違い(勘違い)」をしています。この間違いを放置していると、後々従業員との間で「言った・言わない」の深刻なトラブルに発展し、会社が思わぬダメージを受ける可能性があります。
今回は、経営者が知っておくべき「労働条件通知書」と、「就業規則」の正しい関係性について、よくある盲点を解説します。
盲点1:「面接で話したから、労働条件通知書は作らなくていい」
「面接のときに給料や勤務時間については十分に説明したし、求人票にも書いてあるから問題ないだろう」というのは、非常によくある間違いです。
労働基準法では、会社が労働者を雇い入れる際、以下の特に重要な労働条件について、口約束だけではなく、原則として「書面(労働条件通知書など)」を交付して明示しなければならないと明確に定められています。
- 賃金
- 就業場所
- 従事する業務
- 労働時間
- 休日
(※例外として、労働者本人が希望した場合には、出力して書面化できるFAXや電子メール、SNSのメッセージ機能などでの明示も可能となっています。)
さらに、パートタイム労働者や有期雇用労働者(契約社員など)を雇う場合には、上記の項目に加えて以下の項目についても文書の交付等により明示することが義務付けられています。
- 昇給の有無
- 退職金の有無
- 賞与の有無
- 相談窓口
「相談窓口」について文書の交付等による明示が法律で義務付けられているのは、すべての労働者に対してではなく、パートタイム労働者や有期雇用労働者(契約社員やアルバイトなど)を雇い入れる場合です。
もし、事前に示された労働条件と実際の条件が違っていた場合、労働者は会社に対して約束通りにするよう要求できますし、その違いを理由に即座に労働契約を解除(退職)することが法律で認められています。人材を定着させるためにも、正しい条件を書面で渡すことは必須のルールなのです。
盲点2:「就業規則があるから、労働条件通知書は不要だ」
「うちの会社には立派な就業規則があるから、わざわざ個人ごとに労働条件通知書を作る必要はないだろう」と考える方もいらっしゃいますが、これも間違いです。
| 種類 | 役割 | 特徴・内容 |
|---|---|---|
| 就業規則 | 職場の共通ルール | 始業・終業時刻、賃金の決定・計算方法、退職に関する事項など。大勢の人が働く場所で土台となるもの。(※常時10人以上の労働者を使用する事業場は作成・届出義務あり) |
| 労働条件通知書 | 個別の契約内容 | 「あなたという個人に、具体的にいくらの給料を払い、どの部署で、どんな業務をしてもらうか」を示すもの。 |
両者は車との両輪のような関係です。就業規則で会社全体の基本的なルールを示し、労働条件通知書で個人の具体的な条件を約束する。この二つが揃ってはじめて、従業員は安心して働き始めることができるのです。
盲点3:「就業規則は金庫に大切に保管しているから完璧だ」
専門家に依頼して完璧な就業規則を作成し、労働基準監督署にも届け出た。これで一安心と、社長室の金庫やキャビネットの奥底に大切にしまっていないでしょうか。
実は、就業規則は「作成して、労働者代表から意見を聴取しただけ」では効力は発生しないと解されています。
法律上、作成した就業規則は、以下のような方法で労働者に「周知」しなければならないと定められています。
- 職場の見やすい場所に掲示する
- 一人ひとりに配付する
- パソコン等のモニターでいつでも確認できるようにする
ルールブックを見ることができない状態では、従業員はルールを守りようがありません。また、万が一従業員がトラブルを起こして懲戒処分(ルール違反に対するペナルティ)を行おうとした際、「そんなルールは見たこともない」と主張されれば、会社側が不利な立場に立たされることもあります。
作って満足するのではなく、いつでも誰でも見られる状態にしておくことが不可欠です。
盲点4:「会社の業績が悪くなったら、自由に労働条件や就業規則を変更して給料を下げられる」
「経営が苦しいから、来月から全員の給料を一律で下げる」「手当をカットするルールに就業規則を書き換える」といったように、会社が一方的に労働条件を下げることは、約束違反として原則許されていません。労働条件の変更には、原則として労働者個人の同意が必要です。
では、就業規則を変更して共通ルールとして条件を下げる場合はどうでしょうか。
この場合も、ただ社長が「変えた」と宣言するだけでは無効です。個々の労働者の同意がない限り、以下の2つの条件を満たさなければ、従業員をその悪い条件に従わせることはできません。
- その変更内容に「合理的な理由」があること
- 変更後の就業規則が労働者に「周知」されていること
「合理的な理由」とは、変更の必要性、労働者が受ける不利益の大きさ、労働組合や従業員代表との交渉の経緯などを総合的にみて判断される、非常に厳しい基準です。
会社を守るためとはいえ、無理な不利益変更は従業員の信頼を損ない、モチベーションの低下や優秀な人材の離職に直結します。変更が必要な場合は、十分に話し合い、納得を得るプロセスが欠かせません。
まとめ:ルールを明文化することは「お互いを守る」こと
労働条件通知書や就業規則は、単に「法律で決まっているから面倒だけど作るもの」ではありません。
- 経営者から見れば:職場の規律を維持し、無用なトラブルから会社を守るための「防具」
- 従業員から見れば:「自分がどのような条件で働き、どのようなルールを守れば正当に評価され、守られるのか」を知るための「安心のパスポート」
ルールが曖昧なままでは、経営者も従業員も疑心暗鬼になり、本来の業務に集中できません。明確なルール(就業規則)と、明確な個別の約束(労働条件通知書)があってはじめて、両者は「同じ目標に向かって走るパートナー」になることができます。
もし、「うちの労働条件通知書、昔のままかもしれない」「就業規則が実態と合っていない気がする」と感じた社長さんは、ぜひ一度、見直しを行ってみてください。
専門的な判断が必要な場合は、社会保険労務士にご相談いただくことも有効な選択肢です。
会社と従業員が共に成長できる、明るく透明な職場づくりを応援しています!


