社長さん、こんにちは。社労士みなみです。
今回は、飲食店やアパレルなどのサービス業でとてもよく使われているシフトのルール、「1ヶ月単位の変形労働時間制」についてお話しします。
「うちは月単位でシフトを組んでやってます」という会社は多いですが、実はこの制度、法律の正確なルールと、現場の「これが普通でしょ」という独自ルールの間に、大きなズレがあることがよくあります。
特に間違えやすいポイントと、休日の正しい決め方について、よくあるNGな具体例と一緒にわかりやすく解説します!
そもそも「1ヶ月単位の変形労働時間制」の本当の目的とは?
何のための制度かご存知でしょうか?
本質は、「忙しい時期とヒマな時期(繁閑)に合わせて、労働時間を柔軟に配分すること」です。
あらかじめ忙しい日は長く、ヒマな日は短くシフトを組むことで、結果として時間外労働(残業)を無理なく抑制できるというメリットがあります。しかし、「変形労働時間制だから残業代は不要」と勘違いしてしまうと、大きな落とし穴にはまります。
ポイント1:長すぎるシフトと「残業代」の正確な考え方
残業代の計算において、一番多い勘違いを見てみましょう。
| 【NGな具体例①】決めたシフトを超えて働いたのに残業代が出ない | |
|---|---|
| 事前のシフト | 「今日は忙しいから10時間労働の日」 |
| 実際の労働 | 予想以上に忙しく、11時間働いた |
| 社長のホンネ | 「変形労働時間制なんだから、何時間働いても月トータルで平均すれば残業代はいらないよね?」 |
変形労働時間制の残業は「月平均」ではなく、「総枠管理」で考えるのが実務の基本です。以下のいずれかを超えた場合は、1.25倍の残業代(時間外割増賃金)が必要です。
- ① 日の基準: その日に設定した「所定労働時間」を超えた分(※8時間未満のシフトの日は、8時間を超えた分からが法定時間外)
- ② 週の基準: 法定の週40時間枠を超えた分(※あらかじめ変形制で40時間超を設定した週は、その設定した時間を超えた分)
- ③ 月の総枠: 「変形期間の総労働時間の上限」を超えた分
これら「法定時間外労働」を従業員にさせる場合には、あらかじめ労働基準監督署へ「36(サブロク)協定」を届け出ておく必要があります。
ポイント2:一度始まったシフトの「安易な後出し変更」はNG
「本人に聞いてOKをもらえばシフトを変更してもいいだろう」と思い込んでいませんか?
| 【NGな具体例②】期間の途中で勝手にシフトを変更する | |
|---|---|
| 事前のシフト | 「来週の水曜日はお休み」 |
| 実際の運用 | 急に予約が入った!「ごめん!来週の水曜は出勤して!代わりに金曜休んで!」と直前変更。 |
| 社長のホンネ | 「休みの合計日数は変わってないし、事前に本人に伝えてOKもらったから問題ないでしょ?」 |
変形労働時間制は、原則として期間が始まる前にシフトを「事前特定」する必要があります。
就業規則にきちんとした変更ルールが定めてあり、やむを得ない合理的な理由(かつ労働者への不利益が大きくない)がある場合には例外的に変更が認められる余地もありますが、「急に忙しくなったから」といった会社都合の安易な後出し変更は無効とされるリスクが高いです。
無効とされた場合、想定外の残業代が発生する原因にもなります。自由に変更できる魔法の制度ではない点にご注意ください。
【重要】「休日」の正しい決め方 3つの絶対ルール
変形労働時間制を正しく運用するためには、休日の決め方にも絶対に守らなければならない法律のルールがあります。ポイントは以下の3つです。
1. 大原則!「週1回」または「4週で4日以上」の休日は必須
変形労働時間制を導入しているからといって、連続して何十日も働かせていいわけではありません。
労働基準法の大原則として、特定した変形期間内においても必ず「毎週少なくとも1回」あるいは「4週間を通じて4日以上」の休日を与えなければなりません。また、割増賃金(休日出勤の手当など)を正しく計算するために、どの日が「法定休日」にあたるのかをあらかじめ特定しておくことが実務上非常に重要です。
2. 「変形期間の総枠」から逆算して休日日数を決める
この制度は、「変形期間の総労働時間の上限(総枠)」内に労働時間を収める必要があります。
この上限時間は暦日数によって変動します(歴日数 ÷ 7日 × 40時間)。例えば、31日の月なら約177.1時間、28日の月なら160時間となります。
- 【1日8時間労働が前提の場合】 31日の月の総枠(約177.1時間)に収めるためには、逆算すると目安として月に8日〜9日程度の休日が必要になります。
- 【1日10時間など長めのシフトがある場合】 当然、総枠をオーバーしないためにはさらに多くの休日日数が必要になります。
【補足解説】なぜ「月8〜9日の休み」が必要なの?社労士が逆算のカラクリを解説
ご質問ありがとうございます。「1日8時間労働」を前提とした場合、月に8日〜9日の休日が必要になる根拠について、社労士の視点から計算のカラクリをわかりやすく解説しますね。
この日数は、法律で定められた「1ヶ月の労働時間の上限(総枠)」から出勤日数を逆算することで導き出されます。具体的な計算ステップは以下の3つです。
ステップ1:1ヶ月の労働時間の上限(総枠)を確認する
1ヶ月単位の変形労働時間制では、「1週間あたりの平均労働時間が40時間以内」になるよう、1ヶ月の総労働時間の上限(総枠)が法律で決まっています。
計算式は「40時間 × 暦日数 ÷ 7日」です。
- 31日の月: 40 × 31 ÷ 7 = 約177.1時間
- 30日の月: 40 × 30 ÷ 7 = 約171.4時間
- 28日の月: 40 × 28 ÷ 7 = 160.0時間
ステップ2:上限から「出勤可能な日数」を逆算する
1日の所定労働時間を「8時間」とする場合、上記の総枠を「8」で割ることで、その月に最大何日出勤させられるかがわかります。
- 31日の月: 177.1時間 ÷ 8時間 = 22.13…日
→ はみ出さないためには「22日」までしか出勤させられない。 - 30日の月: 171.4時間 ÷ 8時間 = 21.42…日
→ 「21日」までしか出勤させられない。 - 28日の月: 160.0時間 ÷ 8時間 = 20日
→ 「20日」までしか出勤させられない。
ステップ3:暦日数から出勤可能日数を引き、「必要な休日数」を出す
最後に、1ヶ月の暦日数から「出勤可能な日数」を引き算すると、必然的に「休まなければならない日数」が出てきます。
- 31日の月: 31日 - 22日(出勤) = 「9日」の休日が必要
- 30日の月: 30日 - 21日(出勤) = 「9日」の休日が必要
- 28日の月: 28日 - 20日(出勤) = 「8日」の休日が必要
【結論と注意点】
このように、1日8時間労働をベースにシフトを組む場合、どの月であっても法定の総枠に収めるためには、計算上「月に8日〜9日の休日」をあらかじめ設定しておかなければならない、というのがその根拠です。
もし、31日の月に「うちは月8日休みだから」と適当に決めて23日出勤させてしまうと……
「23日 × 8時間 = 184時間」となり、上限の177.1時間を約7時間(6.9時間)オーバーしてしまいます。
このオーバーした分については、時間外労働として割増賃金(残業代)の支払いが必要になるため注意が必要です。
前提条件となる所定労働時間を計算せずに「適当に月6日休み」などと決めてしまうと、上限の時間をオーバーしてしまい、未払い残業代トラブルに直結します。
3. 「期間が始まる前に」どの日が休日かを特定しておく
現場で一番間違いが多いのがこれです。
正しく使うためには、その1ヶ月の期間がスタートする前に、就業規則やシフト表などで「各日の労働時間」と「どの日が休日か」を明確に特定しておかなければなりません。
「今月は忙しいから、とりあえず休みの日は未定にしておいて、状況を見てその都度決めよう」といった曖昧な決め方はNGです。
まとめ:自社のルールを正しく見直しましょう
「前の職場でそうやっていたから」「ずっとこのやり方で誰も文句を言ってないから」という理由で、悪気なく法律違反をしてしまっているケースは意外と多いものです。
【1ヶ月単位の変形労働時間制のチェックポイント】
- 最低でも「週1日」または「4週で4日」以上の休日を確保しているか?
- 変形期間の「総労働時間の上限(暦日数で変動する総枠)」から逆算して休日数を設計しているか?
- 期間が始まる前にシフト表などで「労働時間と休日(法定休日の特定含む)」をしっかり特定しているか?
- 日・週・総枠の基準を超えた法定時間外労働に対し、残業代を払い、必要な36協定を結んでいるか?
会社と働く人の双方が納得し、安心して働ける環境を作るためには、ルールが正しく運用されているかがとても重要です。
もし「うちの会社のやり方、ちょっとおかしいかも?」「総枠の計算方法がわからない」と疑問に思うことがあれば、そのまま放置せず、いつでも私たち社労士などの専門家にご相談ください!


